この本で得られる学び
- 頭のいい人とはどのような人か
- 頭のいい人になるための具体的な方法
頭のいい人とはどのような人か
頭のいい人とは、単に論理的な思考力や豊富な語彙を持っている人ではない。もちろん、それらは重要な構成要素ではあるが、決定打にはならない。視点を変えて、「頭の良さはだれが決めるのか?」という問いを立ててみると、その答えは明確に「他者」である。他者から「頭がいい」と認識されて初めて、その人は頭がいい人とされる。
本書において定義される「頭のいい人」とは、まさに他者からそのように見られている人である。著者はこの本について、次のように述べている。
結果は、話す前に決まっている。
プレゼンにしろ、商談にしろ、上司への報告にしろ、はたまたプロポーズでさえ。これが、私が新卒でコンサルティング会社に就職し12年、その後、会社を10年経営してきて辿り着いた結論です。
この22年間で、3000社もの企業の社長と、頭のいい優秀なコンサルタントの先輩や上司から得た知見を、だれでも、どの業種でも、どの時代でも通用する形にまとめたのが本書『頭のいい人が話す前に考えていること』です。
「頭のいい人が話す前に考えていること」より引用
本書の第一部では、話す前に意識することで知性と信頼をもたらす「マインドの部」と題し、7つの黄金法則が紹介されている。その中から、筆者の理解として、特に印象に残った3つの特徴に基づいて「頭のいい人」とはどのような人かを考察する。
他者にとって価値のある行動をする人
冒頭で述べたように、頭の良さを決めるのは他者である。ゆえに、他者との関係性のなかで高い知性を発揮することが求められる。これは「社会的知性」とも呼ばれ、他者の思考を読み取り、信頼を得て、行動を促す力を意味する。
この考え方はマーケティングにも通じる。優れたマーケティングは顧客の欲求から始まる。つまり、人は「頭がいい」と思う相手の言葉に耳を傾け、提案に従いがちになるのだ。結果的に、頭のいい人として認められることで、自分のやりたいことも通りやすくなる。
真に頭のいい人は、賢く見せるのではなく、「知らないふり」ができる人である。軽々しくアドバイスすることを控え、まずは相手に話してもらう。知識をひけらかすのではなく、それを「誰かのために使う」ことではじめて知性となる。話す前に考えるとは、自分の知識を披露する場として会話を使うのではなく、「これから話すことが本当に相手のためになるのか?」という視点を持つことに他ならない。
賢いふるまいをする人
ここでいう賢いふるまいとは、上手に見せることではなく、議論や物事が前に進むように意図を持って行動する姿勢のことである。
例えば、議論の最初に意見を出すことには大きな価値がある。仮にその意見が間違っていたとしても、沈黙を破り、議論の方向性を提示することで活性化のきっかけとなる。誰かが最初に言葉を発することで、場が動き出し、他の参加者の思考や発言も引き出され、議論は前に進む。
逆に、正しい内容を流暢に話せたとしても、それが情報量のない当然の内容を繰り返すだけでは信頼は得られない。内容が薄く、誰でも言えるようなことであれば、口のうまさだけでは本質を見抜かれてしまう。
このように、口がうまいとそれっぽく話すことはできてしまう。しかし、上っ面のコミュニケーションは長くは通用しない。求められるのは、物事が前に進むように賢くふるまうこと。つまり、うまく話すことではなく、考えた上で行動し、議論や関係性を一歩進めるための知性である。
承認欲求をコントロールできる人
SNSが広く浸透した現代において、人間が強い承認欲求を抱えているのはもはや疑いようがない。つい知識を見せびらかしたくなるのも、この承認欲求が働いているからである。だが裏を返せば、自分自身の承認欲求を抑えつつ、他人のそれを満たすことができれば、コミュニケーションにおける主導権を握ることが可能になる。
このように、承認欲求をうまくコントロールし、対人関係を円滑にしながら信頼を得るためには、2つの前提条件が求められる。
第一に必要なのは、「自信を持つこと」である。自尊心が低い人間は、他者を心から承認することが難しい。自尊心とは、自分自身を認め、肯定する感覚のことであり、これが欠けていると、他人からの評価や称賛に過度に依存してしまう。その結果、他者の価値を素直に認めることができなくなる。
第二に求められるのは、「自己アピールではなく、結果によって有能さを示すこと」である。他人を積極的に認めながらも、自分自身はあくまで「たいしたことのない存在です」という姿勢を崩さない。それこそが、コミュニケーションの達人に共通する態度であり、周囲から知的で魅力的だと認識されるふるまいである。
人が他者を強く承認したくなるのは、多くの場合、親切を受けたときだ。直接的に恩を感じた人々が、「あの人はすごい」と自然に周囲へ語り始めることで、その人物は次第に特別な存在として扱われるようになる。このように、成果を上げたうえで他人に誠実な行動をとる人間は、次第にカリスマ的存在となっていく。コミュニケーションの強者とは、自らの承認欲求を手放し、他者の欲求を満たす側に回ることで、結果として大きな信頼を勝ち取るのである。
頭のいい人になるための具体的な方法
「知性」と「信頼」を同時にもたらす5つの思考法が紹介されている。特に印象的だった方法を3つご紹介する
客観視の思考法
ここでいう「客観視」とは、自分の発言や思考を一歩引いて見つめなおし、論理の偏りや根拠の曖昧さを排除する姿勢のことである。
まず意識すべきは、「バカに見える話し方」を避けることだ。その原因の多くは、内容が浅いことにある。浅い話とは、以下の3つの特徴を持つ。
- 根拠があいまい
- 用語の意味や定義を理解していない
- 概念や現象の成り立ちを知らない
本セクションでは、このうち「根拠があいまい」という問題への対処に焦点を当てる。
根拠があいまいな話とは、例えば「有名人が言っていたから正しい」「権威ある人が言っているから正しい」といったように、自分自身の考えや理由が欠如した発言である。他者の発言を借りて自説の裏付けとする姿勢は、一見説得力があるようでいて、実は「なぜそう言えるのか?」という問いに答えられない、薄っぺらい主張になってしまう。
では、どうすればこのような思考の浅さを克服できるのか。対処法は主に2つある。
① 反対意見にあえて目を向ける
人は誰しも、自分にとって都合のよい情報ばかりを集めがちである。これを「確証バイアス」と呼ぶ。また、結果を知った後に「最初から予測していた」と錯覚する「後知恵バイアス」も、思考の曖昧さに拍車をかける。
これらのバイアスを避けるには、意識的に自分の意見と反対の立場を調べることが効果的である。異なる視点を知ることで、自分の主張の盲点が浮き彫りになり、思考はより深まっていく。
② 統計的データを調べる
主張を支える客観的な根拠として、有効なのが統計データの活用である。ただし、どんなデータでもよいわけではなく、信頼できる出所から情報を得る必要がある。
例えば、Google検索時に「site:.go.jp」と入力すれば、政府系の信頼性の高いデータのみを絞り込んで表示できる。このように、裏付けとなる数字や事実を持つことで、話に重みと説得力が生まれる。
このように、曖昧な根拠に頼らず、意見の対立構造と客観的データの両面から思考を深めることが、「浅い話」から脱却し、「信頼される知性」へとつながっていく。
「整理」の思考法
思考が整理されている人は、話す前に「何をどう伝えるか」の理解に時間をかけている。複雑な事柄を噛み砕いて説明できるのは、理解が深いからであり、理解が深いというのはつまり、情報が頭の中で整理されているということである。
話を組み立てるときの基本は、「結論から話す」ことである。とはいえ、常に明確な結論があるとは限らない。そんなときは、相手に「何を知りたいのか」を尋ねるのがよい。もしそれが難しいなら、相手がもっとも関心を持っていそうな部分から話を始める。
もうひとつ大切なのは、「事実」と「意見」をきちんと区別すること。これは単なる知識の問題ではなく、注意力の問題である。無意識のうちに反射的に答えてしまわないよう、自分の発言をチェックする訓練を積むことで、話の明晰さは大きく変わってくる。
「言語化」の思考法
「頭のいい人」は、自分の考えを言葉にできる人である。プロフェッショナルな仕事をする人間は、頭の中の思考回路を明確に言語化している。これができなければ、再現性のある成果は生まれない。
言語化能力を高めるには、小学生並みの感想から脱却する必要がある。そのための具体的な方法は次の通りだ。
- ネーミングにこだわる
言葉を正確に選び取ることは、思考の起点となる。名称が曖昧であれば、その背後にある思考もまた曖昧になる。 - 「ヤバい」「エモい」「すごい」といった曖昧語を使わない
語彙を制限することで、自分の感情や評価を具体的に表現する訓練になる。 - 読書ノートやノウハウメモをつける
本の要点や気づきを簡潔にまとめることで、理解を深めながら言語化の力が養われる。著者自身、この手法によって最も言語化能力が鍛えられたと述べている。
思考を言語化する力があれば、自分の知性を他人に伝えるだけでなく、自分自身も理解できるようになる。これは、頭の良さを磨くうえで不可欠なスキルである。
まとめ
『頭のいい人が話す前に考えていること』は、「話し方」のテクニックではなく、「話す前の考え方」を徹底的に掘り下げた一冊である。著者が22年にわたり、3000社の経営者や優秀なコンサルタントたちとの実践から得た知見をもとに、「頭のいい人」とは何か、その振る舞いや思考の原則が平易な言葉でまとめられている。
本書を通して繰り返し語られるのは、知性とは単なる知識量や語彙力ではなく、他者に価値を提供し、信頼を得る力であるという視点だ。つまり、「頭の良さ」は社会的文脈の中で発揮されるものであり、他者からどう見られるか、どう評価されるかによって意味を持つ。自分の知識を披露するのではなく、相手の立場に立ち、「これは相手にとって本当に役に立つか?」と問い続ける姿勢が、本書の核である。
本書を読んで得られる最大の価値は、「話す前に、考える」というシンプルだが実践の難しい習慣を、日常の行動に落とし込めるようになることだ。ただ情報を持っている人ではなく、それを適切に使い、相手の信頼を得られる人。そんな「本当に頭のいい人」に近づくための実践的な道しるべがここにある。
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